あるいい人の物語

いつも誠実な人。

できるだけ人に嫌な思いをさせず、一度約束したことはやり通すことに一所懸命な人Aさん。

Aさんは、そんな一貫性をもった生き方ができない人達に、一生のうちの結構な間、傷つけられてきました。

例えば、軽いところでは約束をドタキャンされる、忘れられる。

一所懸命書いたメールを無視される。

中くらいのところでは、あなたはこうしなければいけない、こうしなければダメだと干渉される。

重いところでは、心から信じていた人に裏切られる。

自分ではしないのに、なぜか人にはそうされてしまうという経験をたくさんしてきたのです。

どうして自分はそんな経験をたくさんするのだろう。

私は人を見誤り、人をそうさせてしまう人間なのだろうか。

人に恵まれていない、またはそんな人を引き寄せる自分が悪いのか。

いつもかすかに微笑んでいるような顔の裏側で、Aさんは密かに自分の人生に悲しみを感じてきたのです。

そんな人生も終わりに近づいた頃、

Aさんは自分に起きた辛い経験を振り返り

なぜ自分の人生はこんな風になってしまったのかと

いつもは自分に問いかけるだけなのですが

その日は、思わず天に向かって、尋ねていました。

人生の随分と長い間、Aさんが自分自身にだけ、問い続けてきたその問いに

天は、すぐに小さな声で答えたのでした。

「少なくとも、あなたは人を裏切らなかった」

そう。そうでした、天よ。

少なくとも私は、そうしてこなかった。

ああ、私の生き方は、これで良かったのだ。

あなたは、私をずっと見ていてくれたのですね。

Aさんの閉じた両目から、一筋の涙が頬にすーっと流れていきました。

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